審査で通りやすい日本政策金融公庫の創業計画書の書き方~後編~

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2021.10.07

今回は日本政策金融公庫の創業計画書の後編。

「必要な資金と調達方法」「事業の見通し」について解説していきたいと思います。

前編はこちら


(1)日本政策金融公庫の創業計画書

新しくビジネスを始める際の資金調達先として政府系金融機関の日本政策金融公庫(以下公庫)の創業融資制度が有名です。

民間の金融機関だと実績の乏しい個人に対してなかなかお金を貸してくれませんが、公庫はその限りではありません。

とはいえ、公庫もただではお金を貸してくれません。

起業しようとしているビジネスの内容や将来性、経営者の経歴や過去の信用情報、自己資金の有無など幅広く審査します。

この審査に通らないとお金を貸してくれません。

そして、その審査のベースとなるのが「創業計画書」です。

(2)創業計画書

創業計画書の雛形は日本政策金融公庫のホームページに公開されています。

日本政策金融公庫の創業計画書に記載する項目は、以下に通りです。

・創業の動機

・経営者の略歴等

・取扱商品、サービス

・取引先

・従業員

・お借入れの状況

・必要な資金と調達方法

・事業の見通し

・自由記述欄

それでは今回はまず、「必要な資金と調達方法」から見ていきましょう。

(3)必要な資金と調達方法

ここでは事業計画を実現するためにいくらお金が必要か、

また現時点でいくら用意できているのかを記載し、

最終的に日本政策金融公庫からいくらの融資が必要になるのかを明らかにしていきます。


ここでのポイントは「融資を受ける金額はいくらか」について具体的に数値を積み上げていきます。


   

①必要な資金


(ⅰ)設備資金

設備資金: 土地、建物、機械などの有形固定資産と、営業権、特許権、ソフトウェアなどの無形固定資産などを指します。

設備資金は起業するために必要不可欠な固定資産を購入するための資金です。
起業前、あるいは起業直後に購入するものが対象になります。

例えば、半年後に購入するというようなものは融資の対象になりません。
また「どうしても必要なもの」だけを記入し、投資金額の妥当性も銀行の担当者から確認されるため、あいまいにせずキチンと説明できるように準備しておく必要があります。
注意点として購入に関し商品の価格表や見積書、購入後に納品書や請求書は確認されるため確実に保管しておきましょう。
購入するかどうか不明な場合には融資対象にならないため対象から除外します。

(ⅱ)運転資金

運転資金: 運転資金とは、設備資金に該当しない人件費、外注費、諸経費などに当てるための資金を指します。

運転資金は事業の稼働に伴って発生する資金です。

この必要な運転資金は後述する収支計画の内容と整合している必要があり、

「8.事業の見通し」の売上原価と経費に記載している内容と必要な運転資金が整合するようにします。


ちなみにですが、運転資金に対してどのくらいの金額まで融資が出るかというと、通常は3ヶ月程度と言われています。

例えば、原価と経費の合計額が1ヶ月200万円だとすると、600万円が一つの目安になります。

②調達方法

(ⅰ)自己資金欄

自己資金は、事業のために使う自己の資金を記入します。

スムーズに融資を受けるためには自己資金は、総事業費に対して3分の1以上あるのが理想です。

なお、通帳の履歴はみられるので、「見せ金」(親や知人から一時的に借りる行為)は絶対にやってはいけません。

(ⅱ)親、兄弟、友人、知人等からの借入

どのような経緯で借りているのかを聞かれることがあります。

(ⅲ)日本政策金融公庫からの借入

実際に借入したい金額を記載します。

(ⅳ)他の金融機関

日本政策金融公庫以外の銀行や信用金庫などからの融資がある場合(予定含む)残高を記載します。

③設備資金、運転資金、調達方法の記入手順

  1. 必要な設備資金の金額を固める
  2. 運転資金が1ヶ月当たりいくらなのかを算定する
  3. 自己資金が最低でも①運転資金の3ヶ月以上あるか②資金全体(設備資金+運転資金×6ヶ月分)の1/3程度あるかをチェック
  4. 自己資金が足りなければ、親などからの資金援助を受けれないか、資金計画を練り直し(3)の条件を満たせないか、検討
  5. 「設備資金+運転資金×3ヶ月分」となるように融資申込みの金額を決める
  6. 最後に貸借金額(左右の金額)が一致しているか確認する

用途 対象 調達 備考
設備資金 全額 融資 土地、建物、機械、営業権、特許権、ソフトウェアなど
運転資金(短期) 3か月以内 融資 人件費、外注費、諸経費など
運転資金(長期) 3か月超 自己資本 人件費、外注費、諸経費など

(4)事業の見通し

創業計画書を記載する上で一番悩ましいのがこの事業の見通し(収支計画)ですね。

大変な作業ですが、ご自身の事業プランが「本当に必要な売上が出せる計画なのか?価格設定や費用のかけた方は適切なのか」を検討する良い機会になりますので、時間をかけて検討しましょう。

①必要な資金と調達方法の設備資金と事業の見通し(収支計画書)の整合性

大きな設備投資をする計画なのに、それに見合うだけの収益を上げられなければ合理的な収支計画書ではないと見られてしまいます。

(ex.減価償却費をキチンと計算し、耐用年数にわたって期間按分した金額を事業の見通しに記載する。)

将来の利益が赤字になってしまっては元も子もありません。

設備投資額が大きすぎないかチェックしてみてください。

②収支計画の実現可能性

例えば、カフェをオープンしようとしていて、売上を単価1,500円×1日5回転という仮定を置いて計算したとします。

その場合、「売上の単価1,500円はどうやって計算したんですか?1日5回転はどうやって達成するんですか?」という審査担当者からの質問に対して明確に答える必要があります。

これは業界平均よりも高い売上を計画している場合には特に聞かれやすい(疑義を持たれやすい)です。

実現可能性については、経営者からの口頭での説明だけではなく審査時点で客観的な説明ができることが理想です。BtoBのビジネスの場合は、売上先が審査の段階で既に確保されて、契約書や見積書を入手していれば積極的に開示しましょう。

また仕入れや諸経費に関しては、「業界平均と比較して妥当か」「経費の金額が過小ではないか」などが確認されます。

業種別の経営指標が気になる方はこちら

③資金繰りの見通し

公庫が最も恐れるのが、「融資を実行してからの短期間での倒産による貸倒れ」です。

融資はリスクがある以上、貸倒れが全くないわけではありません。

しかし、融資実行してから半年も経たず倒産してしまうと、「融資の際の審査がきちんと行われたのか?」ということが問題になってしまいます。

審査では資金繰りに多少余裕のある計画が好まれます。

日本政策金融公庫の調査によると約半分の起業家が当初の計画通りの売上が達成できていません。

計画通りに事業が進まないことを前提に資金を備えておくこと必要です。

もし自己資金以外に補填できる方法があるのなら、積極的に開示するべきです。

例えば、配偶者の方が働いていて収入がある、不動産を持っていて不動産収入がある場合などはその旨を記載しましょう!

④収支計画表の作成方法

(ⅰ) 収支計画書(8.事業の見通し)の”創業当初”と”軌道に乗った後”のポイント

日本政策金融公庫の収支計画書には”創業当初”と”軌道に乗った後”の2つの欄があり、それぞれ売上などを記載します。

「創業当初」には起業してから2-3ヶ月程度の数値を書きます。

また、「軌道に乗った後」はいつ時点なのかを記入する必要があります。

日本政策金融公庫の審査では6ヶ月から1年程度で軌道に乗る計画であれば特に引っかかりませんが、2年目以降も赤字となると「融資を本当にしても大丈夫なのか」と疑念を持たれてしまいます。

つまり、この収支計画上は、起業から6ヶ月から1年程度を「軌道に乗った後」にする必要があります。

利益額については、「創業当初」はトントンぐらい、「軌道に乗った後」は返済ができるだけの十分な利益が出ていることが必要です。

実際には計画通りにはいかずに、6ヶ月から1年程度では十分な利益を出すことは難しい場合が多いのですが、計画上はその時期に十分利益を出すものにする必要があります。

(ⅱ) 収支計画書の売上高①の算出方法

ここから、収支計画書の各項目のポイントを解説していきます。まずは売上高。

基本は単価×数量で計算

売上高の算出方法は、業種に関わらず、単価×数量で考えます。

飲食店であれば、客単価×座席数×1日当たりの回転数×月当たりの営業日数(必要に応じて、平日/休日、ランチ/ディナーなどに分ける)になりますし、

製造業であれば、平均製品単価×月当たりの見込み販売数(必要に応じて、取引先や製品セグメントごとに分ける)になります。

業種に合わせてブレイクダウンしてみてください。

計画上のボトルネックがないかをチェックする

ボトルネックとは、売上を生み出すためのリソースなどの制約となるものです。

これに該当するのは、計画している事業の店舗規模、人員、立地条件、時間などです。

例えば、飲食店のランチの回転数を4回転としたら、多くの場合、時間的に不可能でしょうし、席数以上にお客様を入れるような計画にはできません。

達成できることを合理的に説明できる売上計画にする

日本政策金融公庫の担当者は、ずば抜けて高収益な収支計画を好むわけではありません。

審査の担当者にとって利益額は、融資した金額を返済できる分だけで十分なのです。

説明に行き詰ってしまうような無理な売上計画にする必要はありません。

売上を大きくすればするほど説明が難しくなってしまいます。

融資した金額を返済できる金額を達成できるような売上にすれば十分ですので、場合によっては融資を申請する時点で売上を下方修正しても良いです。

他社との比較を行う

日本政策金融公庫がまとめた業種別の経営指標のデータがあります。

このデータと比較し、収支計画が業界平均と大きく乖離していないことを確認します。

乖離がある場合は合理的な説明ができるように準備するか、難しい場合には収支計画の下方修正も検討してください。

「一体どの程度の売上水準にしたらいいのか?」と思ったときは、とりあえずこの数値を見て参考にしましょう。

業種別の経営指標はこちら

(ⅲ) 「売上原価②(仕入高)」の算出方法

業界の平均程度にすれば無難です。

仮にそこから外れるようならば審査担当者にきちんと納得してもらえるような説明や根拠資料が必要になります。

(ⅳ) 「経費」の算出方法

日本政策金融公庫の創業計画書の経費欄は、その他を除くと項目が、人件費、家賃、支払利息しかなく、かなりざっくりしています。

損益分岐点も把握する

経費は売上原価と同じように、売上が上がれば上げるほど大きくなる変動費と、人件費や家賃のように売上が上がっても変わらない固定費に分けることができます。

損益分岐点売上高(いくら売上を上げれば利益がでるのかの売上の分岐点)は、変動費率(変動費÷売上)と固定費を把握することで計算することができます。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)

<固定費の例>

  • 経営者、店を開けるために最低限必要な人員の給与・法定福利費・通勤費
  • 家賃、水道光熱費の通常の料金
  • 減価償却費

<変動費の例>

  • 繁忙に対応するためのアルバイト代、その通勤費
  • 繁忙による水道光熱費の増加料金
  • 広告宣伝費
  • 消耗品費

なお、支払利息に関しては、借入予定額×利率÷12ヶ月で1月当たりの利息を計算します。

損益分岐点売上高を計算

しておきましょう。

小企業の経営指標と比較して異常値でないか確認

科目ごとの積み上げででき出来上がった数字が、以下の小企業の経営指標の指標と大きく外れていないかをチェックしましょう。

この数値から外れることが悪いことでないですが、もし外れたままの状態で提出する場合は、なぜそうなるか説明できるようにしておきましょう。

  • 売上高営業利益率→1-(売上原価+経費(利息除く))÷売上高
  • 人件費対売上高比率→(給与+法定福利費)÷売上高
  • 諸経費対売上高比率→経費(給与、法定福利費、利息を除く)÷売上高

(ⅴ) 収支計画書で達成すべき”営業利益”の目安

「結局のところ本業でいくら儲かるのか」を表すのが営業利益です。

融資担当者がここを見て、企業の返済能力や存続能力を判断します。

営業利益から、税金、経営者の生活費(個人事業主の場合)、借入れの返済、の3つを支払うわけですから、これらを賄うような数字になっている必要があります。

営業利益はいくら以上であるべきか

”創業当初”に関しては、3つ全て支払うことができるような営業利益の水準にする必要はありませんが、”軌道に乗った後”に関しては、3つ全て支払うことができるような営業利益の水準にする必要があります。

具体的にはざっくり税率を約40%と仮定すると、「(営業利益×60%)+減価償却費」で、まずは税金を引いたあとの利益を算出できます。

この数値は、”税金を引いたあとに手元に残る事業で得た利益”を計算する式でもあります。

次に、この税引き後営業利益は、経営者の生活費(個人事業主の場合)と借入の返済額を超えるような金額にならなければなりません。

まとめると、以下のようになります。

・個人事業主の目標利益水準:毎月の利益×0.65+毎月の減価償却費>毎月の経営者の生活費+毎月の借入の返済額

・法人の目標利益水準:毎月の利益×0.65+毎月の減価償却費>毎月の借入の返済額

いずれも左側が大きく右側を上回る必要はなく、”軌道に乗ったあと”に左側が右側をわずかに上回れば問題ありません。それで、借り入れの返済はできるからです。

良すぎる収支計画書は信用されない

収支計画書の利益率や利益額を良くしすぎると、審査では相応のエビデンスや説明が求められることになります。

いくらビジネスプランに自信があって、担当者に説明する自信があったとしても、一旦現実的かつ固めの数字で作成すべきです。

(5)まとめ

日本政策金融公庫の創業計画書について見てきました。

とくに今回の必要な資金と調達方法と事業の見通しのところは、ボリュームが多くなってしまいました。

ただとても大事なところですので、しっかりと内容を理解してから記入するようにしましょう!

また審査は経営者のこれまでの経歴や事業計画の内容、将来性など総合的な判断によりなされます。

創業融資の準備をすることは、ただ資金調達するだけでなく、

将来の事業計画を立案し、実際に自分の事業は成功するのか客観的に考える良い機会です。

せっかくなので出来るところまで良いので、自分で手を動かしてみましょう!

もちろん分からないところは認定支援機関にお願いすれば大丈夫です。

当事務所は経済産業省認定支援機関です。お気軽にお問い合わせください。

創業融資を利用してライバルに差を付けましょう!